■ 白神のシンフォニー

白神のシンフォニー
 

白神山地のブナ林の四季の音をとり続け、一枚のCDを作りました。


白神の春

 春4月、白神山地はまだ白銀の世界である。しかし、確実に春は動きはじめている。ブナの根周りは、雪解けで円形の穴が大きく口を開いたように春をつげるのだ。

 この雪がなくなるスピードと同じく、ブナの芽吹きが静かに始まる。白神山地を流れる多くの川が、雪解け水を満面にたたえ、増水した勢いのある音が聞こえてくる。

 寒い日、暖かい日と、毎日温暖の差が激しいこの時期、小鳥のさえずりも春の暖かさを喜んでいるようだ。

 この時期の快晴の日は、雪に押しつぶされていたブナの枝が、突如として雪を蹴散らした音で「ピーン」と起き上がる音があちこちで聞こえる。まさに春爛漫の季節である。

 里では、村人が田植えの準備に余念がない。朝、各家々から木炭ストーブの煙が上がる。朝日が昇ろうとする時期は、トラクターの音が聞こえてくる。田植えは村人総出の作業である。村人はこの時期、わずかな時間を利用して、山の香りに誘われて恵みを求めて山に入り、山菜を採ってくる。コゴミ・シドケ・アイコ・タケノコ・ヤマウド、何でも採ってくる自然と共生している住民は、生活のために山に入るのだ。

 そして、田植えを終えた村人は、月各集落で、さなぶりの踊りを舞う。今年の大豊作を祈ると共に、無事田植えができたとを感謝するのだ。



 夏、太陽がサンサンと照りつける季節、白神山地のブナ林の中は、さわやかな陽光とさわやかな風が、木々の間を通り抜ける。山には食べ物が豊富で、小鳥や動植物も生きていることが楽しいといわんばかりのこの時期、多くの山好きな人々も白神山地を訪れる時期だ。

 里でも子供たちは野山を走り回り、野外では汗いっぱい戯れている。

 ブナの生長は春から夏までのこの時期に一年間の90%延びる。ブナの木に聴診器をあてると「ゴーーン、ゴーーン」と水を吸い上げる音が聞こえてくる。

 夏のブナ林は、ブナの大きな葉っぱが太陽の光を林の中に入れないぐらい、びっしりと天空に向かって葉っぱの表を広げている。

 だから蒸し暑ささえ感じるこの時期、朝太陽が昇る前のブナ林は、小鳥のさえずりで始まる。太陽とともに起き、太陽とともに宿り木にとまる。そうすると静寂な森が朝まで続くのである。そんな光景が毎日繰り返されるそして時がたつのである。白神の奥深い森の中では、こんな光景が何千年、何百年の歳月も繰り返されてきたのかと思うと、自然のすばらしさに感嘆する。



 秋、広葉樹の森は、私たちにその季節季節でまったく違う感動を与えてくれる。錦秋色のまっ黄色の白神の森は、黄金の輝きを讃える。一年間輝いて力を金色に染め、来年に向けて輝きを最大権に紅葉する。広葉樹の森のドラマチックなドラマだ。ブナは4年か5年おきに実をつける。葉っぱが枯れかけると同時にその種はブナの幹周りに落下する。
 250年ものブナの木は28000粒の種をつける。その種を目当てに動物たちが集まってくる。ツキノワグマは、熊だなをつくって木の上で枝を手繰り寄せて食べている。ニホンザルも大好物である。ハタネズミ・リス等々・・・・・

 ブナの森は豊穣の森だ。これから始まる厳しい冬に備えるために、おなかいっぱい食べ続ける。秋は動物たちの山の恵みを食べた痕跡があちこちに残っている。

 ブナが種をつけた年の翌年は、動物たちの新しい生命と食物連鎖の世界が繰り返される。
 春には、新しい生命が誕生するのである。また、ハタネズミが増えると、蛇が増える。蛇が増えると、オオタカ、イヌワシが子育てに食べる・・・・というように弱肉強食の食物連鎖が誰の指示でもなく繰り返される。その環境に適応した生き物だけが、次の子孫を残すことができるのである。



 冬、深深(しんしん)とふる雪、ビュービューと音をたて、雪煙りをあげて吹雪く地吹雪と雪国にとって冬は、凍てつく寒い時期である。川も凍りつくのである。春の雪解け水が荒々しい音だとすると、冬の川は物音ひとつしない静かな川である。

 朝の森は、日が昇るのと同時に小鳥が飛びはじめる。ぴたっとタイマーが働いているかのようだ。風が吹くと木々についていた雪が地上に落ちる。そうするとびっくりしたように鳥が飛ぶ、そんな光景と、ピゅーぴゅーと朝から吹雪いている日と、静かに雪がふる日と様々な世界が展開される。雪の上には、動物たちの足跡や、糞の後が残ってる。小鳥たちの姿が、よく見える。

 山の形がよくわかる季節でもある。

 夕方、山はシンシンと寒くなる。そして夜に入っていく。雪が引き締まる音がする。

 春の芽吹きを楽しみにジーと雪解けの日を待っている白神の木々は我慢強い。人間だったら根をあげることだろう。ブナは知っている、冬は必ず春になることを、だからじっと耐え忍ぶのである。

 里では、子供たちが元気に雪合戦やカマクラづくり、スキー・ソリ遊びに戯れている。雪国の子供たちはとにかく元気だ。季節季節の遊びを知っている。


 

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