ご挨拶

世界遺産「白神山地」の魅力を学びませんか

 青森県と秋田県にまたがる「白神山地」は、地域住民の保護運動をきっかけにして、1993年に日本初の世界自然遺産に登録された世界に誇るブナ原生林である。
 八千年前の縄文時代から人の手がまったく入っていない13万ヘクタールの巨大なブナ天然林は、微生物から生態系の頂点までの動物たちが暮らす豊かな生態系を擁している。核心地域で約100種、緩衝地域で約500種の植物が生息。哺乳類については青森県に生息する哺乳類47種のうち約40種、鳥類は90種以上、昆虫類は2200種以上確認され、ブナの森全体が遺伝子貯蔵庫としても大切な財産となっている。

山と人との関わりは古く、周辺地域には縄文遺跡も数多く分布している。また白神山地の核心地域周辺部は生産活動の場として長きにわたり利用されてきました。17世紀後半からの木材生産や薪炭の生産地、尾太鉱山など銅鉛鉱山も栄えてきました。また津軽藩時代から薬草の宝庫であり、民俗学の祖と言われる菅江真澄が津軽藩からの依頼により数年をかけて採取調査を行い、藩の財政に寄与してもいます。

 現在も山菜採りや沢歩き、紅葉狩り、四季を通じたトレッキングなど様々な楽しみができますが、里人の暮らしに白神山地の水が大きく係わっています。
 しかしながらこの素晴らしい白神山地と流域の過疎高齢化および農林漁業の衰退問題を解決するには、未来に向けて「白神山地の水」をキーワードに広く日本の若者に情報を発信することが重要と考えております。

■白神山地のマタギと里の暮らし

 白神山地に生息しているニホンジカの数が、近年急速に増加しており、貴重な白神山地の植物や木の若芽、樹皮が食害にあい原生林が破壊される可能性もでてきました。さらに熊やサルの出没も加え、野生動物の被害が里の生活にも災いを及ぼし白神ツーリズムや農業に大きなダメージを与えています。

 白神山地は「神々の済む森」と言われれています。その白神山地の自然と共生してきたマタギたちは、「山の神の恵みを貪ることはしないで、必要な分だけ神からいただく」という考え方を通してきました。マタギは獣を狩るだけでなくブナ原生林の守り人でもあり、さらに訪れた人に「人と自然」や「社会と自然」「伝統文化の暮らし」など白神の素晴らしさを教える教師でもあります。
 これらマタギ文化を守り伝え、さらに後継者を育成することは、白神の里人にとって非常に重要な課題となっています。

■里地・里海・里川の恵み

 白神山地は世界自然遺産としての価値だけでなく、人々が古くから暮らしの糧を得てきた場所です。時には里に大洪水をもたらすブナの森でありますが、ミネラル豊富な清流は川魚を育み、穀倉地帯の水源となり、伏流水とともに海に流れ出た水は豊富な魚介を育んできました。初代津軽藩主の時代より記述が見られる津軽相撲は、大相撲の横綱を始め幕内力士を国内でもっとも多く輩出しており、それはこの青森の農山漁村の豊かな土地が心身を育んできたことに起因しているものと考えております。

 そうした豊かさが津軽藩発祥の地となり、北前船の御用港として船に欠かせない飲み水や豊作時は七万石を積み出す重要寄港地が鯵ケ沢湊です。
北前船の交易により美味しい米と水が揃う鰺ヶ沢には麹作りが伝えられ、白神山地の伏流水が湧き出す場所で1860年創業した「尾崎酒造」の蔵人は「山の水」と呼び仕込み水として利用してきました。

 同様に200年以上前に創業した「大沢醸造」は天然醸造の味噌と醤油を製造し、濃口でコクがある醤油は刺身や煮魚との相性がよく鰺ヶ沢や深浦の食文化の元となっています。
近年、弘前大学で白神山地の微生物利用の研究から、白神山地から酵母を分離することに成功しました。ブナやミズナラなど樹種によって性質の異なる酵母菌(白神酵母)を分離し、現在「白神ブランド」の清酒製造に取り組んでいます。

 しかし酒造りには不向きな酵母菌とのことで、他の活用方法を模索することも試行中です。
鯵ケ沢町では、うるち米に餅米と小豆に砂糖を混ぜて蒸し上げる鯨餅は、北前船によって伝えられた鰺ヶ沢町の名物お菓子で現在、町の「鯨餅店」は、たった一軒となっています。
 白神の水がもたらした農林漁業を基幹産業にした豊かな暮らしは、近年、一次産業の低迷で担い手不足が深刻となっており、それらを要因として山里が過疎高齢化で喘いでいます。

 白神山地を源に町を南北に流れ日本海に至る赤石川は、上下流域の田畑を潤し、上質の米どころを形成しています。その赤石川には黄金色に輝く「金アユ」が生息しており、アユ釣りマニアには有名な川です。しかし温暖化や頻発する災害で、個体数が減少したため資源の回復のための調査を行い稚魚の放流による増殖技術に務め、現在徐々に回復しつつあります。
 この上流域では幻の魚「イトウ」の完全養殖を行っています。「魚」扁に「鬼」と書くサケ科の魚で、元々は、ロシアのアムール川に生息している淡水魚です。幻と冠したのは、作家 開高健と言われています。幻と言われるのは1999年の「汽水・淡水魚類に関する新しいレッドリスト」で、「絶滅危惧IB」に指定。国際自然保護連合の2006年版レッドリストで「絶滅の危険が極めて高い」とされています。
全国的に見ても珍しい完全養殖が成功したのは、白神山地の沢水が15℃前後で安定しているため魚に負荷がかからないためと言われています。

■鰺ヶ沢町は白神山地の北の玄関口

 作家 太宰 治は小説「津軽」で、海岸沿いにだらだらと続く街道一本の鰺ヶ沢町に辟易した様子を書いています。
 また、この街道は昔から、通称「ふんどし街道」とも呼ばれています。
 前述した「鯨餅」のパッケージは白い山とうねる波が描かれていて、鰺ヶ沢町の特徴を見事につかんだ表現となっています。

 津軽は「ぼたぼた ぼたぼた りんごの落ちる音は お母さんのなみだが 落ちる音だ」未曾有の災害の後に採取した小学生のつぶやき「リンゴの涙」の一節です。1991年の通称「りんご台風」でリンゴだけで550億円の被害が出ました。これは東日本大震災の農業被害140億円を遙かに超える被害額で、壊滅的な打撃であったことが分かります。
 白神山地の核心部分を源流部を持つ、赤石川は1町で源流から海まで完結するとても珍しい河川です。山からの湧き出た栄養豊富な水は、水田やリンゴ畑を潤し、町の産業に寄与しつつ里海に硫下する。その川沿いでは複層的に川と地域が重なり合い共存してきました。
 農村の変化は川と関わる暮らしや生業、その土地が連綿と伝えてきた歴史と共に消えていきます。

 せっかく、世界自然遺産という、広葉樹の森(緑のダム)と言われる、水が森・里・川・海と流れ、豊かな水の循環の水系を作っている白神山地の里です。
今回、本州にある世界遺産 白神山地(自然遺産)が、どの様な管理体制で守られているか?
また、津軽弁で「うるがす」とは、親しい間柄で全てを分かち合う言葉とも言われています。
白神山地の水を基軸に鰺ヶ沢町の人々が「うるがす」の関係で、白神の里の暮らしを、日本の将来を担う生徒さんに、紹介するプログラムをご覧ください。
今ここに、鯵ケ沢町の歴史文化の一つでもある、津軽藩発祥の地でもある、種里城(国史跡)は、この里にあります。
 修学旅行・グループ旅行・企業のセミナー等に、是非、ご利用して頂きたいと考え、ここにプログラムを製作しました。
どうぞ、どんなことでもお問い合わせを頂ければ、お答えさせて頂きます。

特定非営利活動法人
白神自然学校一ツ森校
代表理事 永井雄人
18.02.20